第9回「神経を観る 人を診る」
講師 : 松本秀也 副院長
大勝病院の患者さま・ご家族を対象にした医療講座、第10回「患者友の会勉強会~神経内科の病気のお話~」が平成24年4月28日(土)に開かれ、当院 副院長 松本秀也先生が「神経を観る 人を診る」と題し話しました。
初めに、「歩けない」を主訴に患者様が来られた時、そこからはどんな病態が考えられるか? 神経内科の医師.は、患者さまを一目“診た”ときから診察を始めている。一言に「歩けない」といっても、下記のように、多種多様な病態が考えられ、患者さまの訴えに耳を傾け、いつからどうあるのか詳細に聴き(神経内科疾患は症状経過が非常に大事)、目的に応じた診察道具を用いて神経学的所見をとり、画像・生理検査等を行います。それらを総合して、消去法で可能性を絞り込んで、病気を見極めます。
①運動麻痺~脳卒中、脊髄損傷、末梢神経障害、多発性神経炎、ミオパシー、筋無力症
②感覚障害(特に深部知覚低下)~脊髄後策障害、糖尿病
③痛み~足の痛みだけとは限らない
④無動・固縮~パーキンソン病
⑤不随意運動~ジストニア、舞踏病
⑥失調症~小脳疾患
⑦関節拘縮~リウマチ、変形性関節症、廃用症候群
⑧歩行失行・すくみ(足)・立ち直り反射障害~パーキンソン病、純粋無動、前大脳動脈閉塞症
⑨切断~事故、ASO、骨肉腫、先天性
⑩失明(中途)、複視、めまい(眼振)、開眼失行
⑪立ちくらみ(起立性低血圧)~シャイ・ドレーガー症候群
⑫高次脳機能障害~空間失認、身体失認、Pusher症候群
⑬ヒステリー、失立失歩
今回の勉強会はリラックスして聴けるようにと、それぞれの病気の実際の写真や絵、雑誌の切抜きなど目にしたことのないスライドを用いて説明。例えば、有名な画家さんが神経内科疾患だったこと。ルノワールがリウマチでうまく動かない手で、繊細なタッチのすばらしい絵画を描いていたこと。ゴッホの独特の黄色を主体とした色調と渦巻くようなタッチの絵画は、彼の持病であるめまいが影響していたのではないか。パロディに使われるほど有名なムンクの「叫び」の絵画は、精神障害の表れている絵。自分の悪口を言っているのではないかという不安感から人は黒い影となり、暗く蠢く赤い空は、ムンクの母親が結核で吐血したことによる恐怖の反映。また、本来の絵を裏返しにした絵がまず呈示され、オリジナルの絵の画面構成が右下がりなので絶望や恐怖という印象を受けるのに対し、逆に右あがりだと希望という印象を受ける、という人の目の不思議な視覚心理。もとから裏返しの絵が存在するのではなく、松本副院長が自分で絵画鑑賞する中での見解では、画家たちはこれらの視覚効果を本能的に感じ、描写している。
話は一転して、松本副院長の研究の話、「耳の“しわ”は赤信号 脳梗塞の危険性」(以前、新聞にも掲載)。臨床の中で気づかれたもので、脳梗塞を起こされた方の耳朶には“斜めに走るしわがある”という発見。そして、「耳」に関係する話題から、バイオリンを演奏される松元副院長が敬愛するモーツアルトの話、難聴に悩みながらも様々な色調の音楽を作曲したベートーベン。その道を極める方は、なんらかのハンディをバネに、またはハンディがあるからこそ、その人にしかみえない世界を感じ、自己表現欲に溢れ、人を感動・驚嘆させるものをつくれる。
そして、フランスのパトカーは「POLICE」の文字の鏡像文字。レオナルド・ダヴィンチの鏡像文字。ペニシリンの発明と超長寿社会のつながり・・・・等など多岐にわたりました。教科書的な説明とは一味違う、ユニークな切り口のお話に聴き入り、あっという間の90分でした。